自動車を整備・修理するときに必要となる整備マニュアル。

ディーラーではメーカー独自のシステムを利用していますが、全国に約60,000件ある独立系自動車整備工場はFAINESを利用して整備マニュアルを確認します。

日整連が管理しているこのFAINES、大変便利なのですが1)利用制限と2)古いシステムの2つの問題点があります。そして政府が推奨するスキャンツールの活用と反対の方向を向いているとも言えます。

これらは、国家資格である「整備士」を基準に制度を見直すことで、解決可能ではないでしょうか。

今回はそのFAINES利用に関する問題点2つと、解決に向けた提言を纏めました。

FAINES(ファイネス)とは

FAINES(ファイネス)とは、一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(JASPA・日整連)がインターネットを利用して運営している「車種ごとの整備マニュアルを閲覧する」ためのシステムです。自動車メーカーが発行している整備マニュアルや、国土交通省が発表しているリコール情報など、整備に関する情報が一元的にこのFAINESから得られるようになっています。

日本の自動車メーカーであれば、おおよそ2000年以降に販売した車両全ての整備マニュアルを見ることができます。ただし、海外メーカーの整備マニュアルは見ることはできません。

FAINES(ファイネス)画面_1
FAINES(ファイネス)画面_トヨタ86

独立系整備工場には欠かせないFAINES

正規ディーラーは自社ブランドの車のみ整備・修理を行います。一方で、独立系の整備・修理工場が取り扱うクルマは、メーカー・車種に関わらず千差万別。カーメーカーは車の整備情報を完全開示はしていません。

そこで、間に入って各自動車メーカーから情報を収集し、特定の事業者に公開しているのが、国土交通省の関連公的団体:日整連が運営するFAINES(ファイネス)なのです。正しく整備・修理を行うために、整備工場には欠かせないツールというわけです。

日本自動車整備振興会連合会(日整連)

自動車整備振興会連合会(JASPA)は、日本の自動車整備事業を統括する団体で、一般には「日整連」と呼ばれています。全国で自動車整備事業を営む約9万事業場が会員です。

日整連については車の整備・修理・鈑金業界団体まとめも参照してみてください。

利用条件と利用料金

FAINESは誰でも利用できる訳ではなく、利用の為の条件があります。利用料金と合わせて以下の通りです。

会員

整備振興会に所属する事業所であれば、会員価格で利用が可能となります。

  • 入会金:12,000円(税別)
  • 基本料金:1,500円(税別)/月
会員外

整備振興会に所属していない事業所でも、日整連が定める自動車関連の団体(例えば「全国自動車電装品整備商工組合連合会(電装連)」)に所属していれば、会員外としてFAINESを利用することができます。

  • 入会金:35,000円(税別)
  • 基本料金:6,000円(税別)/月

詳しい利用規約は日整連のHPで見ることができます。

(参考)海外の整備マニュアルサイト

因みに海外の有料整備マニュアルサイト【HAYNES】の利用料は自動車だけで399ユーロ(約48,000円)になります。

整備マニュアルとスキャンツール

そもそも、高いお金を払って見る整備マニュアルというのは必要なのでしょうか?

整備マニュアルとは

整備マニュアルは、自動車を修理する上で参照にする手順書です。部品交換の手順が記載されていたり、ネジやナットの締め付ける強さなど正しい数値や、配線図などを見ることができます。

部品交換の手順であれば、経験を積んだメカニックは、参照にする必要はありません。しかし、センサーなどの電子部品は、正しい数値が分からなければ、故障診断をすることができません。

故障診断はスキャンツール + 整備マニュアルで実施

近年の車両は、不具合が発生した際に、クルマ内部のコンピューターに不具合箇所を記録させるようになっています。この不具合箇所のデータを読み取る為に、コンピューター診断機(スキャンツール)を使用します。

そして、整備マニュアルには電子機器の「正常な時の数値」が記載されている為、メカニックは整備マニュアルを参照し、スキャンツールを車に接続しながら故障探求を行います。

「クルマのデータをスキャンツールで読み取り、整備マニュアルを見ながらエンジンの不具合を探っていく」

これが近年の整備士の仕事です。

重要性が増すスキャンツールと整備マニュアル

故障診断以外にも、スキャンツールを使用しなければ行えない整備・修理作業が増えています。

例えば、アイドリングストップ車のバッテリー交換を行った時に、スキャンツールを使用して、コンピューターの値をリセットしなくてはいけない車両があります。また、自動ブレーキなどの先進安全装備の整備作業にもスキャンツールが必須です。

そして、スキャンツールを活用するためには、数多ある車種の整備マニュアルを参照することが必須です。

その為、一般の自動車整備工場が事業を行う上で、FAINES利用の重要性は高くなっています。

政府の方針

国土交通省では、スキャンツールを利用した点検方法を推進しています。2つの新制度と諸外国の状況がその理由です。

2つの新制度

自動ブレーキなど、車の高度化に合わせて以下2つの新たな制度が開始されます。どちらもスキャンツール使用が必須で、スキャンツールを正しく活用する為に整備マニュアルの使用も不可欠なことは先に説明した通りです。

新制度1. OBD車検

2024年を目処に実施が予定されており、車検時の点検項目にスキャンツールによる診断が入ります。例えば、エンジンに不具合が有るにも関わらず、車検に通ってしまうのは、車検の目的に則していません。スキャンツールを使用することでより確実なクルマのメンテナンスが行えます。

新制度2. 特定整備

エーミング等スキャンツールがなければ作業できない整備を実施する場合に、現在の分解整備と同様に、国から認証資格を得た業者でなければ作業できなくなります。特定整備の詳細は特定整備 - 内容と事業者への影響をご参照ください。

諸外国ではスキャンツールでの検査が必須

また、イギリスやドイツなどでは、すでにスキャンツールを使用した検査制度があり、日本は遅れているとも言えます。

これらの事情から、車検時のスキャンツールの活用を政府は推進しているわけです。そして、それ実効性を伴った制度とする為に、国が自動車メーカーに対して情報の開示を求めているというわけなんですね。メーカーも情報開示を行っています。

国の指針とメーカーの情報提供

政府はスキャンツールの仕様に関する指針車載式故障診断装置を活用した点検整備に係る情報の取扱指針を発表しています。

この指針の4条において、自動車メーカーに対して情報の開示を求めています。

情報の提供と情報一覧【乗用車】を読むと、各メーカーの対策が記載されています。どの国産メーカーも「FAINES」を経由して情報を提供していることが分かりますね。

問題点1. 使用者制限

既に解説した通り、「整備振興会」或いは「日整連が指定する自動車関連団体」に属していなければ、FAINES(ファイネス)を利用することができません。

認証の無い整備・修理事業者

「認証を受けていない事業者なんているの?」と思うかもしれませんが、沢山います。

国から認証を受けている工場を認証工場と呼びますが、認証工場でなくても、分解整備(エンジンなど7項目の分解整備)を行えないだけで、整備・修理事業を行う事はできます。

また、電装品の修理や取り付け、ガラス交換など、認証工場ではない整備関係の事業所もたくさんあります。

このように、認証工場以外で自動車整備産業に関わっている人たちが多くいる一方で、整備マニュアルが見れない・FAINESが使えない、というのは大きな問題です。繰り返しですが、近年の高度な自動車の修理には、整備マニュアルが欠かせないからです。

認証資格を得るのは大変

整備振興会に入会するには認証工場の資格を得なくてはいけません。であれば、認証を取れば良いのでは?と思われるかもしれませんが、認証を撮るにはお金がかかります。

認証工場の資格を得る為には:

  1. 土地と整備工場
  2. 認証工場に必要な設備機器
  3. 国家資格を有する整備士

が必要となります。

認証工場取得に必要な手続き金額は20万円ほど、加えて設備等にて数千万円の資金が必要です。それに加えて、整備振興会への入会金:30,000円、月額会費:4,500円、その他の事務手数料と、「これでもか」と費用が加算されます。それをクリアして、初めてFAINESの利用が可能となります。

ハードルが高いと思いませんか?

加入メリットが少ない自動車関連団体

整備振興会以外であっても、認められた自動車関連団体に属することでFAINESの利用が可能であることは先に述べました。中には入会が容易な団体も存在しますが、入会金、年会費・月間費とコストがかかり、総会、忘年会、新年会などの各種行事の参加が求められます。

少ない人数で整備・修理業を経営する身からすると、費用や時間の無駄は省きたいのが本音です。

問題点2. 古いシステム

現在のFAINES、インターネットエクスプローラーでしか見ることができません。

Iternet Explorerと言えば、脆弱性等により開発元のMicrosoftがサポートを中止し、Edgeへの乗り換えを推奨しているインターネットブラウザです。また、世界のインターネットブラウザのシェアを見ると、Googleが提供するChromeも多くの方が利用しています。

また、FAINESがEdgeやChromeに対応すれば、スマホやiPadで整備マニュアルを見ることができるため、現場のメカニックにとっては機動力と効率性が上がることは間違い無しです!

問題点を整理

今までの流れを整理すると

  1. 政府はスキャンツールを活用した整備を推進
  2. スキャンツールを活用するために整備マニュアルの情報開示をメーカーに求める
  3. メーカーは国の指針に従い、「FAINES」を通して情報提供を実施
  4. 「FAINES」は認証工場(指定工場)もしくは、関連団体に属していないと使用できない
  5. 認証工場(指定工場)や関連団体に属さない整備事業者が沢山存在
  6. 多くの整備事業者は整備マニュアルを参照できず、スキャンツールが活用できない

政府はスキャンツールを活用した点検整備の推進を行っていますが、現場では整備マニュアルを見れない為に、スキャンツールを活用できない状況となっているのです。

解決策の提案「整備士資格」の活用

ところで整備士は国家資格です。資格を取るために、費用と時間を費やし、国家試験をパスして初めて整備士になることができます。

詳しくは自動車整備業界の基本 - 工場数と従事者を参照下さい。

整備士資格を国家資源として有効活用

自動車の知識が無い人にFAINES(整備マニュアル)の公開を行う事は良いことだとは思いません。ですので、一定の基準を設けて整備マニュアルの公開に制限をすることには賛成します。

しかし、その基準に認証工場(指定工場)かどうか、もしくは関連団体に属しているかどうかと言うのは、本質的とは思えません。

一定の基準を設けるというのなら、整備士資格の有無で十分ではないでしょうか。

また、整備士資格を取得した際に得られる番号(整備士手帳に記載)を利用してアカウント作成できれば、有資格者の再教育など、様々な観点で活用できるでしょう。

整備士不足が叫ばれている中、整備マニュアルの利用に制限を掛けることによって仕事の偏りがすでに起こっています。情報を広くプロのメカニックに公開することで、多くのメカニックにスキャンツールの活用を促すことは政府が推進している整備事業にも合致しますし、「働き方改革」にも繋がるのではないでしょうか。

日整連へのお願い

日整連こと一般社団法人自動車整備振興会連合会(JASPA)にはFAINESの広い開放を願います。

整備士不足や整備士再教育を念頭に、国家資格である整備士を軸に「制限」を組み立て直して頂けたらと社会にとってもメリットしかないと考えます。

日整連さん、よろしくお願いします!

【番外】 てんけんくんはヒルズ族

ところで、日整連のオフィスは六本木ヒルズの17階にあります。坪単価は3万~3万5千円らしいので、50坪ほどのオフィスでも単純計算で150万円/月以上の家賃ですね。
日整連が使用しているマスコットキャラクターてんけんくんは実はヒルズ族だったんですね!
てんけんくん
(てんけんくん:日整連HPより)

可愛い顔したてんけんくん、指を指している先は六本木ヒルズの18階だったのです!